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実物を下から見上げてみると、この7階建てのマンションは、この町と同様に、写真よりくすんで見えた。
(入りたくないッ!!)
恵里佳は心の中では、叫びたい気持ちでいっぱいであった。
そう思ったところで、今更手遅れである。
恵里佳は夫が憎たらしくて仕方なかった。
「ママ?どうしたの?」
長女で9才になったばかりの優奈に、母親の醸し出す雰囲気が気付かれてしまったようだ。
「ううん、何でもないよ」
適当な返事でごまかした。
引っ越し初日のその日の夕飯は、今日だけはママに楽をさせてあげようとの康一の気遣いにより、外食することになった。
引っ越し初日と言うことで、お蕎麦を食べに行くことにした。
そのお蕎麦屋さんは、マンションから車で3分程の場所にあり、マンションがある地区より、少し市内寄りにあり、いくらか街灯の数や車の行き交う量も多く、恵里佳は少しホッとした。
お蕎麦屋さんは、所謂『小汚い』店だった。
綺麗好きの恵里佳としては、こんな店なら、コンビニでカップめんを買って、新しい住居で蕎麦をすすった方が、何倍もマシだと思った。
がしかし、ここでも康一の『こういう店の方が、味は確かなんだ』と言う、どうでもいい理由に押され、店に入ることになった。
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