1380人が本棚に入れています
本棚に追加
康一が言う通り、確かに蕎麦の味は美味しかった。
でもやっぱり店内も汚くて、息をするのも辛かった。
優奈も恵里佳に似ているのか、最近綺麗好きの片鱗を見せてきていたので、当然優奈も嫌なのか、あまり蕎麦に箸を付けなかった。
そして、なんとか食べ終わり、財布を握る恵里佳が会計しようと、入口にあるレジに行くと、この店の女将さんが厨房から出て来た。
「ご馳走様です」
と恵里佳が言うと、女将さんはニッコリと笑顔を向けてくれた。
「今日この町に引っ越してきたんですけど、何処に何があるのかさっぱり分からないんですよ」
と世間話をするかの様に、恵里佳が女将さんに話をふると、女将さんの表情が一転強張った。
こう話をふられれば、笑いながらいろいろ教えてくれるのが普通ではないのか?
女将さんのその豹変ぶりに、突然恵里佳は言い知れぬ不安に襲われた。
「…あの…何かあるんですか…?」
恵里佳は、不安を隠しきれない口調で、女将さんに問いかけてみた。
女将さんは、突然の恵里佳からの問いかけに、一瞬間が空いた。
戸惑ったと言う方が、正しいのかもしれない。
一度は言葉を喉の奥から発そうとしたものの、結局女将さんはその言葉を飲み込んだみたいだった。
最初のコメントを投稿しよう!