君、怖いよ

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私は、ケーキを買えずに、外にいた。店内の甘い香りはもうとっくに消えていて、車道からの排気ガスと砂っぽい空気のなか、店を出てすぐ横に設置されている休憩ベンチに腰をおろした。 なんの為に誕生日休暇を使い、なんの為に行列に並んだのだろう。 一時間前までは、アロマスティックケーキを抱えて笑顔で帰宅後する自分の姿しか想像していなかった。 でも、買えなかった。 買えなかった。 あんな変な男に誕生日にケーキをプレゼントされるなんて、絶対にごめん! プライドが許さない。 …あの男を無視してでもお金を自力で払い、ケーキを購入するべきだったんだろうか。 でも、店内であの男と会計を巡って押し問答を続けるのは 恥ずかしさの連続になる。 あのまま、あの男と会話していたら、世代間にギャップのあるおばさん連中に、カップルの痴話喧嘩などと誤解されかねない。 やたやだやだ。 想像だけで身震いを覚える。 その時ちょうど携帯のメールがブルブル震えて着信を告げた。 【ハッピーバースデー♪美咲♪例のケーキ買えた?今日は一緒にお祝い出来なくてごめん。一応早く仕事終われば飲みに行けるからまた連絡するね!25歳、奇跡的な出逢いがあるように祈ります】 葉子からだった。 私は、すかさず返信した。 【ケーキ買えず。出逢いなし。】と打ち込み、最後に【人生における最低のナンパはあり。】 と返信した。 そして、ベンチから見える店内のカフェテラス部分を怖いもの見たさで少し覗いてみた。 まだ、あの怪しいファッションで店内をうろついているなら、彼は本当にクレイジーで変わり者だと思う。 しかし、あの、ファッションでナンパとは凄まじい。 しかも、少しナンパ慣れした堂々とした、口調。 いやいや。もう、考えるのはやめよう。 とその時、カフェテラス一番前の席で誰かにメールするヘンテコ帽子の姿を発見。しかも、携帯には変なストラップついてます。 携帯のストラップも変だなんて、まさに私にはお手上げなセンス。 サボテンのぬいぐるみに大きな目と鼻と口が付いてて、ムンクの叫び見たいに口が開いて奇妙なストラップ。そして、そのストラップが手のひらよりも、大きいものだったから、外から見ても異常に目立っていた。もう。ここまで来るとあの人自体がコントよね。 私は、ヘンテコ帽子のヘンテコなセンスにこれ以上巻き込まれない様に ベンチから腰を上げた。 さて、コンビニでも寄って安いケーキ買おうかな。
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