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#1
私が家を失ってもう数時間が経っていた。もうどれほど公園のベンチに腰掛けているのか知れない。砂場で遊んでいる親子が私に冷ややかな視線を浴びせる。勘違いするな、家がないんじゃない。無くなったのだ。
遡ること数時間前、私はいつも道理に本屋のアルバイトから帰ってきた時だ。私の家の前に人だかりが出来ており、なんだろうと思って見てみると、確かにそこにあるはずの私の家が忽然と消えていた。
残っていたのは殺風景な空き地だけであり、買い手がつかないあろう不気味な空間だった。
あんぐりと口をあけ、呆然と突っ立っていると、私の肩をトントンとある人物が叩いた。赤城である。その容姿は妖怪小豆洗いを彷彿とさせ、人を不快にさせる。
「やぁやぁこんばんは。家消えちまいましたね」
「お前何か知っているのか?」
「ゲヘへ、知ってるわけないでしょう。こんな怪奇現象、専門家でもない限り解読不可能ですわい。それはそうとこれを渡しに来たのです」
そういって赤城は大きな紙袋を取り出した。持ってみるとずっしりと重かった。
「なんだこれは?」
「炊飯器です。前に壊してしまったでしょう?それのお返しです。……まぁ、家が無くなった貴方にはもう不要でしょうが」
「お前絶対わざとだろう?こんなタイミングで炊飯器なんか渡す奴があるか?」
「偶然ですよ、偶然」と赤城はケラケラと笑った。「それで?貴方これからどうする気ですか?家無くなってしまいましたよ?」
そうなのである、私は家を失った。その原因も謎である。一時、天敵である蜘蛛が私の部屋に現れたため、家ごと業火の内に焼いて焼失してやろうと馬鹿な考えをしていた頃があったが、いざ本当に消えてしまえば困ったどころの騒ぎではない。絶望である。
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