1・宿泊客リスト

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 不思議な物で、新千歳空港を出た頃には俺の疑問はすっかり消え失せてしまっていた。  其れも此も、眼前に広がる北海道の景色と空気が気分転換の効能を与えてしまった事に起因するのだろう。  北海道は全体的に寒いと言う印象はあったが、さほど寒くない。  程良く涼しい風が頬を通り過ぎて行き、寧ろ過ご易い方だ。  ふと腹の虫がごろごろと鳴りだした。これから向かう札幌の中心区“すすきの”で軒を並べるラーメン横丁のラーメンなら、飯を寄越せとせがんで止まない腹の虫共を大人しく出来るだろう。  俺は腕時計に目をやった。  ふむ。将門にチェックインする時刻まで、まだ時間はある。ラーメン横丁で腹拵えを済ましてから向かっても悪くは無いだろう。  地下鉄に向かう道中、ふと不思議な光景を目にした。  十二月は日が沈むのが早く、辺りは真っ暗なのだが、未だに夕日が点高く赤々と夜の北海道を照らしているのだ。  こんな時間に夕日?  ふと、そんな疑問が頭を過ぎったが、銀幕の上に移し出すと映えるかもしれない。いつかはフィルムに収めてみたいものだ。  そんな事を思いながら、俺は地下鉄を下へ下へと向かって行った。
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