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そんな時だったろうか。
君と出会ったのは。
「佐々木さん?」
最初の言葉はそれだった。
「いえ。違いますよ。佐々木さんなら昨日入って来た、廊下側の人じゃないですか?」
「あっ!すいませんっ!」
そう言って長い黒髪を揺らせて、君は僕の前から消えた。
看護士意外の人とはあまり話した事がなかった僕は、そんな短い会話を覚えてる。
それから、君のお日様みたいな暖かい匂いも覚えてる。
しばらくして君は、おずおずと僕のベッドのカーテンを開けた。
「あ、あのぅ……」
茶色の瞳をちょっと下へ向けてもじもじしている。
「何ですか?」
「さっきはすいませんでした。間違ってしまって……」
「別に良いですよ」
君は後ろ手に持っていた紙袋を、ストンと僕のベッドに置いた。
「これ、お詫びです。美味しいマドレーヌですから、どうぞ食べて下さい」
「あ……悪いですよ、こんな事で頂いちゃうなんて」
「いいえ、どうぞ」
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