Prologue

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   考えてもみてほしい。  ある日、突然に見知らぬ世界が自分の目の前に広がっていたらどうする?  そう……突然に、だ。  予兆は疎か、きっかけすらない。 あまりに突然で、自然災害のような出来事。  日常の終わり。 何かの始まりを予感させるには充分で、これまで培ってきた一切の常識が通用しないと思われる世界がその先にある。  まるで漫画やアニメ、ゲームみたいな展開だ。 自分は特別な存在だったと、心躍る人はいるだろう。  貴方は選ばれた勇者だ。 とか……  失われた伝説の力を持つ者。 とか……  だが、そんなものは望んでる奴等にくれてやれ。 俺の場合、心からそう思う。  世界を支配する魔王と戦う決意なんて決めたくないし、周囲を木っ端みじんにする力なんて危なっかしい物も欲しくない。  そう、俺は普通でよかった。 普通がよかった。  平凡な人生を過ごしたかった。 過ごす筈だった。   一般の家庭に生まれ、一般の教育を受けて育つ高校生、まさに一般人。  飛び抜けた特技は無く、かといって劣っている物もない。 身長、体重も普通。 学力も平均的、ど真ん中な存在……  それが俺、『佐居 京平』だ。  きっと将来的にはどこかの会社に入って、どこかの誰かと結婚して、出来れば可愛い奥さんがいい、そこは男として普通では譲れない所である。  ……ちなみに、その奥さんとの子供が産まれて、出来れば娘がいいな。 奥さん似の可愛い娘。もちろん嫁にはやらん、そんな事いいながら結局は娘の結婚式で号泣。 孫が産まれて、そして老衰辺りで生涯を終える。 可能ならば奥さんを遺して逝きたくないな。 かといって先立たれるのも嫌だ。 つまり、同時が望ましい。  そんな俺が持つどこにでもあるであろう普通の人生計画は、今まさに音を立てて崩れ落ちようとしていた。  世界を支配する魔王が現れて、戦う決意を決める前に木っ端みじんにされたくらいに、呆気なく。
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