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佐居 京平(サイ キョウヘイ)。
榊沼高校3年C組、17歳。どこにでもいる普通の学生で特筆するような特徴もなければ、突出した特技もない。
それが俺だ。
不満に思った事はない。人に自慢できる事がない。社会集団において自己を売り込む武器がない。ないない尽くし、だからどうしたというのか。平均的、素晴らしい事じゃないか。
午前中で下校時間となる終業式の今日、校門に背を預け、自分と同じ制服に身を包む学生達を見ながらそんな益体もない事を考える。
「……にしても遅いな、灯衣菜(ヒイナ)の奴」
新緑を芽吹かせる3月の風はまだ冷たく、顔をしかめながら俺は未だに学生を吐き出し続ける校舎の入り口へと視線を向けた。
待つこと事態は苦ではない。せいぜい、まったく仕方ないな……と苦笑してしまうくらいだ。
残念ながら学園指定の濃紺に染まるブレザーの防寒性が芳しくないせいか。それともただ1人でいるせいか。涼風に身をすくませながらも溜め息を掃き出しそうになるのを押し殺し、すっきりと晴れ渡る空を見上げる。
同じブレザーの制服を来た数名の生徒達が楽しげにお喋りを交わしながら目の前を過ぎていく。 自分だけがどこか取り残されたような、そんな寂寥感が――
「お待たせ、兄さん」
と感慨に耽っていると馴染み深い声、視線を送れば入口から女生徒が1人、2つに括った黒髪とスカートを揺らしながらこちらへ走ってくる。
途端、周囲からの好奇が混じる視線に羞恥の熱を頬に感じた。まったく、公衆の面前だというのに大声を出すなよ。
「ったく……遅いぞ、灯衣菜」
「だからお待たせって言ったじゃない」
軽く息を整えながら生意気にも口答えをする妹に、言葉を返す事なく身を翻して歩み出した。
好奇の視線はもうない。たとえ見てくれは良くても、灯衣菜とはただ仲の良い兄妹だからこれが普通。
これが、俺の望んだ――
「兄さん? もしかして、怒ってる?」
思考と一緒に足を止めたのは、どこか泣きそうな響きを持った灯衣菜の声で、俺は思わず苦笑していた。
「怒ってないっての。ほら、さっさと帰るぞ」
「うんっ!!」
「うん、じゃなくて、はいだろ。だからいつまでも子供(ガキ)って言われるんだ」
「はいはい、そうだね兄さん。でもまだ私も兄さんもまだ未成年だから問題ないと――」
本当、特に最近は生意気さに磨きがかかっているようだ。
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