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「兄さん、聞いてるの?」
「あぁ、聞いてる聞いてる」
微かに雪の残る帰り道を灯衣菜と並んで歩く、当たり前の距離感。取り留めのない会話と思っているのは俺だけだったらしい。更に適当に返事をしていたのがバレたのか、妹君は半眼で俺を睨みながらもこれ見よがしに溜め息を吐きこぼした。
「いい加減、仲直りしなよ」
「またその話か……」
吹き荒ぶ冷風に襟元を正して身をすくませる。明確さのない忠告だが、悲しい事に何を伝えたいのか、理解してしまった俺も倣うように溜め息を漏らした。
「こんな風にギクシャクしたままなの、私は嫌だな。兄さんだってそうでしょ?」
「仕方ないだろ。だって――」
背後から微かに聞こえた足音と小さな鈴の音に、続けようとした言葉を飲み込んだ。灯衣菜も知っているのか……いや、知っているからこそ、この話題をしつこくしてくるのだろう。
だが振り返る必要もない。振り返ったところで、俺は"彼女"に何を言えばいいのか。
「……先に帰る」
「ちょっと兄さん」
「ついでと言っちゃなんだが、コンビニで何か買って来てくれないか?」
早めた歩調の分だけ不機嫌さの増した灯衣菜を制して、財布から数少ない紙幣を1枚だけ手渡す。
いったい何のついでなのか、意味なんて言わずとも解ってくれるだろう……と思ったのは残念ながら俺だけらしい。腑に落ちないといった顔の灯衣菜から視線を外して空を見上げた。
「しかし、寒いな。こんな日は友達と暖かいココアでも飲みながら話したいもんだ」
「あ……」
どうやら御理解頂けたようだ。同時に肌を走った鳥肌に身をすくませながらも歩調を早める。あぁ、寒い寒い。
「あんまり遅くなるなよ。母さんも親父もうるさいからな」
「分からず屋……それと、ありがと……」
ただでさえ男尊女卑ならぬ女尊男卑な我が家のお小遣い事情で少ない身銭を切ったというのに、お礼より先に耳の痛い御言葉を頂いてしまった。
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