第一章 【保健室の死神】

2/19
前へ
/40ページ
次へ
4月20日(金) 誰もいない。私の周りには、誰もいない。 誰かが、そんな歌を歌った。 私は、その題名も知らない歌にひどく共感した。まるで私のことを歌っているような、そんな気持ちにさせられる。 「見ろよ、あの子噂の……」 今日も、同じ言葉が聞こえてくる。そして誰もが卑しい笑顔を作り上げ、時に私の元へすり寄ってくる。 「ああ、【大和撫子】の宮代か。ほんと、今日も髪サラサラだなー」 耳障りな喧騒から逃げるように、私は足早に廊下を歩いた。 私は、学校が嫌いだ。ただただ面倒で憂鬱にしかならないこんな空間、就職難でなければ絶対に受験なんてしなかっただろう。かといって、OLみたいなものには進んでなりたいとは思わないのだが。なにせ私は、“集団生活”というものが嫌いだからである。更に限定して言うのなら、“噂”というものが嫌いなのだ。 噂というものは、簡単に広まっていく。誰かの口を塞いでも別の誰かの口から伝わり、その口を押さえれば先程塞いでいた口が喋り出す。 私は、そんな病の被害者である。 成績優秀、眉目秀麗、運動神経抜群。 眉目秀麗かどうかはしったこっちゃないが、成績も運動神経も平均並だ。上は山ほどいるだろう。 おかしな噂には、さらにおかしな噂がついていった。中には全く身に覚えのないものまで存在した。 こうして、完璧な人間という噂の鎧を纏った、完璧な私が出来上がった。私はそれ以来、学校中の生徒に、【大和撫子】などと呼ばれるようになったのである。 私は、そんなたいそうな人間ではないのに。みんなと大して変わりない、普通の女子高校生なのに。一体、私が何をしたというのだ! そんな訴えを心の中で何度叫び続けただろうか。しかし、もちろんその訴えが誰かの耳に届く訳ないのだが。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加