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「いやー!すまねぇな!!なんか見知った車が走ったからごんぞーのかなって!」
つまりは、弥高は渋谷の車が歩道を歩いている自分の横を通り過ぎようとしたのに気付き、力業で止めたようだった。
「生身の腕で?」
「あぁ。片腕で」
「生身の手で?」
「あぁ。片手で。もちっと言うと人差し指で」
「…車に傷などは付いておりませんでしょうな、弥高様」
兄弟の会話に渋谷がジロリ睨み、横やりを入れる。対する弥高は飄々と、
「ごんぞー、普通に止めたらそれこそ傷が付いちゃうじゃん。ちゃんと人差し指でソフトに止めました!」
そーですか、と渋谷は気の抜けた返事をして再び車を発進させる。
「はー。相変わらずぶっ飛んでんなー、その力」
兄の感嘆の声にしかし弥高は目の前で手を振る。
「兄貴、これはパワーじゃねぇよ。どこに力を入れるか、どのように能力(ちから)を作用させるか、という点が大事なんだよ。この世には俺ほどの腕力がなくても、それに近いほどの破壊力を発揮する技もあるし、目の前のものには一切衝撃を与えず、それを挟んで後方にあるものに力を伝達させる、っていう技もあるんだから」
なるほど、と慧哉は納得する。確かに莫大な破壊力を持っていても、その力に指向性がなければ拡散して弱体化してしまう。逆に小さなパワーでも一点集中すれば相手にはかなりのダメージが期待できるだろう。
まあ、もっとも。と、慧哉はそこまで予想を膨らまし、隣にいる弟――もとい、第六位――を観察する。
(こいつはその技を簡単に出来ちゃうんだもんな…。いや、それ以上か)
露川弥高は身体系の頂点の『惑星掴み』だ。本気を出せば、その名の通り地球を掴み、放り投げることも可能だろう。恐ろしいのは、その力を顕微鏡サイズで操れる、ということだ。
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