新と旧の佇まい

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故に能力も一切明らかになっていない。判明しているのは、気付いたら『叩きのめされていた』ということだけだ。 弥高に目を向けると、彼は軽く苦笑いをしてポツリポツリと話し始めた。 「はは…面目ねぇ。実はな、前に第一位を探したことがあったんだよ。オレにも勝てっかなって…でさ、なんとか見つけたんだ。そんで声をかけたら…」 「……………」 「…オレも他の奴らと例外なく潰された。気付いたら公園のベンチで寝てたんだ。しかもまったく負けるまでの過程が思い出せない。顔も。声も」 弥高の声だけが続く。『序列』の中でも第一位を見たものはいない。目撃例は多いのに、実際の像が全く浮かんでこないのだ。 「お前、身体系の頂点だろ。体が覚えてたりしないのかよ」 「無理だ。食らった―はずの―攻撃の感触はまともに残ってない。思い返そうとしてもいきなりプッツリと記憶が途切れる」 「………なるほど」 まるでヒントがないような状態だが大きな収穫だ、と慧哉は思う。こんな近くに、しかも――多分――もっとも善戦したであろう検体がいるなら、長年探し続けている第一位を探す大きな道標になるかも知れないのだ。 (…帰ったら将延にでも電話してみるか) その時、フッと自然に車が停車する。 「慧哉様。弥高様」 渋谷がハンドルを動かしつつ二人に声をかける。 「着きましたよ」 目の前には、高さが五メートルはあるかという城門がそびえ立っていた。
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