69人が本棚に入れています
本棚に追加
/994ページ
まだ家にさえ入っていない。ただ領地内、いや庭の中に入っただけである。しかしその庭の移動に、車で十分余りを費やし、その庭自体にも森があったり湖があったりするのはいかがなものだろうか。
挙げ句の果てに、
「なー。弥高ー」
「あぁ?」
「…屋根が見えないんだけど…」
「今さらオレに言うんじゃねぇよ…」
本当に、馬鹿げていると思う。なぜ我が家を見上げるだけで首を直角以上に曲げないといけないのか。しかもそれでも屋根は見えない。
これで一軒家なのだ。この国の地質状況を鼻で笑っているとしか思えない。
「なー。弥高ー」
「…あぁ?」
「…家の奥行きが見えないんだけど」
「…それも今さらだな。安心しろ。部屋は無限だ」
「それのどこを安心しろと…」
兄弟でげんなりする。この世に高さも奥行きも見えない建造物があっていいのか。横幅は確認できるがそれでも百メートル走を何回繰り返せば端から端までいけるだろうか。もはや地質云々より物理法則すら無視している感じがしてならない。
渋谷が車の中でカーナビの様なものを軽快な調子で叩く。すると、重い音を出しながら建物のドアが開き出す。
「…ごんぞーがやったの?」
「はい。この車が家のセキュリティと直結しておりますので」
どーりで…、と慧哉は自分を運んだ車を見る。確かに普通の車にしては席の大きさに対して車体の前と後ろの膨らみ具合が少しおかしい。あそこになにかあるのであろうか。
「慧哉、家ん中さっさと入ろうぜ」
「ん?おお」
チラと渋谷の方を見ると、『私は車を車庫まで運ばなくては行けませんので』と言ってお辞儀をひとつして走り去ってしまった。
「…ドアも大きくね?」
「大丈夫だ弥高。気にしたら負けという方向で」
最初のコメントを投稿しよう!