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二人はドアをくぐる。そのドアも車は楽々通過できそうなほど大きい。
露川家に玄関は存在しない。入るとすぐ、中央に階段やその両脇の無数の部屋などが目に飛び込んでくる。
近くを通りがかったメイド達の『お帰りなさいませ』という言葉に二人は生返事を返しながら自分達の部屋へと向かう。その途中で慧哉はふと思い出したように弥高に尋ねた。
「お前これからどーすんの」
「慧哉に勉強教えてもらう」
即答する弟に、兄は明らかに嫌な顔をする。
「えー。いやだよ。俺だってすることあるんだから」
「どうせお前のは勉強に関係無いどうでもいいもんだろが!こっちは数学ヤベェっつってんだろ!!今日この台詞何回目だ!?さっきも言ったような気がする!知るかあほっ垂れ!とにかくそんくらいヤバイの!アイハブアぴんち!!」
「お、おぉ…弥高…?」
いきなり暴走し始めた弥高にビクビクする兄だが、さっさと止めなくては自分に危害が及んでしまう。
(こいつの力で殴られたらマジ洒落になんないって!)
「わ、わかった。分かった!手伝おう!手伝うから!!手頃な壁を殴ろうとすんじゃない!!粉砕するだろが馬鹿!?」
卍固めで止めようとして逆にベアーハッグを決められ失神寸前になる慧哉だが、その時二人に聞き慣れた声が聞こえた。
「いたっ!いたいたいた!やぁっと見つけたわよっ!探したんだから全くもぉ~」
元気のよい声だった。二人がそれぞれ『黎奈かっ!?』『里璃か!?』と緊迫しながら声の聞こえた方角に目をやると女性がこちらへ――かなり早足で――歩いてくるところだった。
見た目はかなり若い。『二人の姉です』と言ってもなんとなく通じるであろう、瑞々しさを備えている。すっきりとしていながら、出るところはしっかりと出ている体型は、柔らかそうなワンピースに包まれている。その女性はかなり二人にとって見慣れていた。しかし同時に少し苦手な相手でもあった。何故なら、
「……ただいま。母さん」
「おかえりおかえり~っ!なに弥高ちゃん慧哉ちゃんにベアーハッグ決めてるのよ。ほら外して外して」
手でしっしっ、と外すようジェスチャーする寧架(やすか)。降ろされた慧哉は『あ"…今ので俺なんミリか頭蓋骨横に圧縮されたわ』とかぶつぶつ呟いている。
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