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手足を投げ出してひきずられていく慧哉を見送り、ふと弥高はあることに気付く。
(兄貴が居ねぇと勉強出来ねぇじゃねぇか!?)
これでは数学ができない。かといって今の寧架から慧哉を取り上げようものなら、――物理的に――容赦なく吹っ飛ばされるであろう。
(どぉしよ、どぉしよう。慧哉がいなくなっちゃあどうしよぉもねぇよ。どぉもしようがねぇよ)
「…弥高様?」
半ばパニック状態の弥高は呼ばれた方を見る。そこには、先程車を車庫に入れてきて戻ったばかりであろう渋谷が、不審そうな目でこちらを見ていた。弥高の表情がにわかに明るくなる。
「ごんぞーっ!聞いてくれよ!母さんが酷いんだ!!テストで料理が慧哉なのに勉強で毒味が母さんに連れてかれた!」
渋谷はまず抱き付いてきた弥高を丁寧に引き離し、脳内で冷静に、支離滅裂な文章を正しい文章に変換する。伊達に露川家の執事はしていないのだ。
「…なるほど。大体は分かりました。奥様はああなるともう止まりませんからね。諦めたほうがよろしいでしょう」
「くそー…勉強が…明日どうしよう…捨てようかな…でも基本教科だしな…………ってあれ?」
思考に没頭していたため気づかなかったが、今さら自分が歩きながら考え事をしていたことに気付く。おそらく話し相手が歩き始めたので自然と無意識について歩いていったのだろう。
「ごんぞー?なにしてんだ?」
「えぇと…暫くお待ちください…あ、ここだここだ。ここですよ、弥高様」
なぜか渋谷がぴったりと壁に密着してなにかしている。そして示したのもただの壁であった。しかし、壁にしてはなにか変だ。なんの変哲のない壁にしては空白が大きい気がする、と弥高がぼんやり考えていると、
渋谷が、ガチャリと壁を開けた。
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