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「これよこれこれ。食べてもらいたい料理!」
そう言いながら寧架がその皿に注いだものは、ホワイトシチューだった。
色とりどりの季節感溢れる野菜をふんだんに使い、大きな鶏肉もゴロゴロと入っている。そして、それらは白いルーに包まれ静かに鎮座している。柔らかな匂いもさることながら、その見た目だけで白飯を食べることが出来そうなほど神々しい光を放つホワイトシチューである。この真っ白な台所に置いておくと、もはや一種の芸術作品に感じる。
「これはまた…旨そうッスね」
余りの輝きに感動したように、慧哉は静かに息をつく。
しかし、その目は明らかに虚ろで、誉め言葉は完全に棒読み状態だった。そんな慧哉に寧架はアハハと元気に笑う。
「まぁまぁ慧哉ちゃん。そんな深いため息つかなくても~。ちゃんと見た目は保証するわよ?」
どーせなら味を完全保証してほしい、と慧哉は切実に願う。確かに寧架の料理は素晴らしい。賞にも何回か入選している。
だが。それは味ではない。
純粋に。
見た目のみでの評価である。
慧哉の母がつくる一品。なぜだか、どういうわけだか、レシピを見て作っても必ず不味くなってしまう。その不味さたるや一口で人を病院送りにするほど。つい先月にも、世に数多くある兵器のなかで、もっともユニークな戦略武器として登録された。
その兵器がいま、慧哉の目の前に設置されている。
これに冷や汗をかかずにいられようか。
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