新と旧の佇まい

24/30
前へ
/994ページ
次へ
『白の間』。渋谷はこの部屋をそう呼んだ。視覚的にも感覚的にも三次元ではありえないような造りになっており、この空間にあるのはただただどこまでも平淡に続く白い無機質な大地。 「唯一外界と繋がるのはこのディスプレイだけです。出るにもこれを操作せねばなりません」 そう言って渋谷はその手に持つ薄い先程の表示盤を軽く掲げる。それはパソコンのディスプレイと同じくらいの大きさであり、緑色の下地に白い線で文字やグラフが書かれていた。しかしそれは、渋谷が手を振るだけで消えてしまった。 「さて…まず、この部屋に弥高様を呼んだ理由をご説明いたしましょう」 弥高は頬杖をついたまま軽く頷く。なぜオレをわざわざこんな場所に連れてきたのか。 「弥高様。この『白の間』は露川家のセキュリティとは切り放されています。この部屋でなにをしようと、なにを話そうと、あちら側にバレることはございません。…なので単刀直入に申し上げます。私が申し上げたいのは、『劣悪な十傑(テン・イビル)』についてでございます」 「……………」 弥高の眉が少しだけ動く。 どうやらセキュリティが別々なのは本当のことらしい。そうでなければ、『劣悪な十傑』のことを堂々と言えないだろう。 本来、この単語については、話されることを何故か大人はあまり良しとしない――それ故に、子供たちのかっこうの噂話となっているのだが――。車の中で話していたのも、渋谷というあの空間での唯一の大人は、自分に仕えている形だからまさか親のように怒鳴られることはないだろう、と判断しての行動だった。
/994ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加