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「『劣悪な十傑』とは、『序列』が始まってから第五十代目の十人のことを指します」
ポツリポツリとこぼすように渋谷は話す。そこまで大人たちにとっては回避すべき話題なのだろうか。
「その十人は、今まで君臨していた前『序列』を一瞬にして葬り去り、全員ほぼ同時に入れ替わりました」
総入れ換えですね、と渋谷は呟く。
「その十人は強力でした。全員第一位級の力を有していたからです。……それは逆に言えば、みんな同じくらいの力で甲乙がつけにくい拮抗状態が続いていたということです」
「……拮抗状態?」
弥高は怪訝な声を発する。車で聞いた話だと、共喰いになったと言っていたが。
「…最初からみんながみんないがみ合っていた訳ではありません。寧ろ、各々が強大過ぎるために、各々が抑止力、または不可侵の誓いを立てたのです。十人がそれぞれの間で、何重にも。そしてそれはそれなりに上手くゆき、『至高の十傑(テン・ヒーロー)』と呼ばれるようにまでなりました。天賦才覚全員の英雄だったのです」
渋谷の口調は、まるで小さい子供に昔話を語るかのようなそれだった。目の奥には堅い光が宿っていた。
「実際、十人はヒーローでした。力を合わせ様々な異物と戦いました。相和町の当時のトップ…つまり貴方の曾御祖父様のことですが、トップは特別な措置として第一位という位置に十人を配置することも考えていました」
そこまで喋り、渋谷は紅茶で口を湿らした。
しかし、と声がいきなり落ちる。目の光が消失する。
「しかし。それではどうしても納得できない者がいたのです」
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