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「もっとも、慧哉様はご自分でお調べになっているようです。最近の変化にお気付きになられたのでしょう。…と、なると『劣悪な十傑』や『攻撃』のこともご存じでしょうがねぇ」
「まったくあのバカ兄貴…。誰にも頼らずに自分で調べてんのか。親父のこと嫌ってるくせに、してることはよく似てるな」
ハハ、と軽く笑う。父も父なら子も子か。どうやら自分には父の血はあまり入ってはいないらしい。…欲しいわけではないが。
でも、と弥高は言葉に区切りをつける。
「それじゃオレをここに呼んだ理由としてはまだ不十分だ。話をするだけなら他の部屋でも十分だし。母さんだって事情を知ってるはずだから慧哉も連れてこよぉとすれば出来たはずだ。…それなのに、こんな特別な舞台を用意した」
ゆったりと紅茶を飲み干し、そのまま脱力したように立ち上がる。
それってつまり、と弥高の口が動く。
「オレと戦(や)るってことでしょ?なぁ、ごんぞー」
途端に第六位の体から不可視の何かが噴出する。それはなんの物理的干渉力もないはずなのに、まるで風のように渋谷の服の端を揺らす。
しかし渋谷は眉一つ崩さずに静かに席を立ち、ディスプレイを操作してテーブルや椅子を下げる。
「…奥様から頼まれたのですよ」
あくまで静かなまま、渋谷は手袋を締め直す。
「『弥高様を、『攻撃』にもしっかり対処できるように、特訓してあげて』と」
「ふーん………。じゃあ」
『惑星掴み』の二つ名を持つその体がゆらりと揺れる。その顔にあるものは、
薄い薄い、笑み。
「やっちゃっていいんだね?」
「お構い無く」
化け物と生きる伝説は、一瞬静止した後、人体の限界を軽く越える速度でぶつかった。
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