恐怖の余波

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「ご……ぐ…」 「無理ですよ弥高様。私の声を耳に入れた時点で貴方の敗北は決定致しました。いくら貴方が『序列』だとしてもこれは巻き返しできないでしょう」 渋谷の言葉が静かに上から叩きつけられてくる。起き上がろうにも服はおろか体までをも無理矢理床と接着したかのように動くことができなくなっている。体の力が抜けているわけでもなく、単に莫大な重量を押し付けられているわけでもない。 例えるならば、自身の体が自ら進んで床に沈もうとしているかのような感覚。 (クソッ!!押し付けられる痛みで考え事もまともに出来ねぇ!なんだこりゃ!?物理的か、精神的か。なんも解決の取っ掛かりがねぇぞ………っ!!) 「…よろしいのですか?いつまでもその状態だと、殺してくれと言っているようなものですよ?ご自慢の怪力はどうされました?専売特許なのでしょう?」 渋谷の挑発が、更に冷静な思考力を奪っていく。 「い、われ…なくとも…」 (仕方ねぇ…全身の天賦才覚を下半身に圧縮して一気に起き上がるっ!!) 「ふ…ぐ………おあぁっ!!」 下半身が不自然に脈動し、右足がゆっくりと動き出す。渋谷の眉が微かに動く。 「が…ぁ…く…」 相変わらず下へ向かおうとする力は消えていない。弥高はそれに反抗するように足を立てていく。『力(ちから)』と『能力(ちから)』の競合。それは弥高の体に一体どれだけの激痛を響かせているだろうか。 「あ…お、らぁっ!!」 それでも弥高は二本の足でしっかりと大地を踏みしめる。すかさず下半身に圧縮していた能力を全身に回し、これ以上倒れることを防ぐ。それでも、体は勝手に倒れよう、倒れようと下へ動こうとしている。 ガクガクと動く弥高に渋谷は目を僅かに細める。 「ほぉ……よく立てましたね。正直これでギブアップかと思っておりました。失礼しました」 「…………」 明らかに人をバカにしている発言に、弥高は鋭い眼光で対抗する。 下へ叩きつけられないように注意しながら、弥高は体を動かし最低限の構えをとる。 (しかし…どうする。全く法則が見えねぇ。兄貴だったら分かるかも知れねぇがオレはそこまで賢くねぇしな…さて…)
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