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違う、と思い直す。なにかが視界を横切ったというよりかは、気になるものが目の端に写った感覚だ。普通に五感を処理していたなら簡単に見逃していそうなもの。しかし、いまは『戦闘』中だ。少しの油断が勝敗を左右する。
(なんだ…?なにが引っ掛かった。探せ………探せ………)
とはいったものの、この空間で活動しているものなど弥高と渋谷しかいない。すると、やはり原因は渋谷しかいない筈なのだが。
「おやおや、止まっていて、よろしいのですか?そのままジッとされていては、それこそ潰されて、しまいますよ?」
「………………?」
言葉の内容も相変わらず『挑発』しているものだ。しかし、それよりも弥高には気になるものがあった。
(息が………?)
ほんの少しだが、渋谷の声から覇気が無くなったように感じる。もちろん今のままでも十分、人を威圧してくる声だが、途切れ途切れに喋っている。
まるで、全力疾走した後かのように。
(…………………ッ!)
さらに弥高は異変を発見する。
(肩も………そのまま見逃しちまいそうだが、わずかに上下してやがるのか!?)
それを見つけると、弥高の目に次々と渋谷の異変が飛び込んでくる。
例えば、足。僅かに、膝が震えている。
例えば、顔。微妙に、脂汗の様なものが額に浮かんでいる。
例えば、立ち方。少しだが、戦い始めたときよりも足を広げて立っている。まるで、自身の体重を支えるように。
少し、僅か、微妙。個々に取ってみれば全く気づけない変化。それに気付けたのはやはり『序列』という立場に立っている者だからか。
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