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すまんねぇ、と村の通りに声が響いた。赤毛法師は笠を上げ、歯を見せながらニヤリと笑う。八郎の体には雷をまとった錫杖が突き刺さっていた。
「――鬼の名前覚えられるほど記憶力よくねぇんだよ、おじちゃん」
その声を聞き届けたのか、八郎――鬼はその黒き角と牙、黒き爪を現した。体は血のように赤く染まり、体長は二メートル程に高くなる。
「おーおー、鬼にしては小さいな。まー中途半端で。――まだ百年も生きていない子鬼風情がおじちゃん化かそうなんざ百年――いんや、千年くらい早いかねぇ!」
言うなり錫杖を鬼の体から引き抜き、両手をぱんっと打ち鳴らす。その音に呼応して鬼の足元に陣が敷かれ、淡い蒼色に光り輝く。
それに加えるかのように、両手を四回打ち鳴らし、最後に錫杖で地面を突くと家屋や井戸――否、【村】が消滅し、鬼達が姿を現した。
「貴様、やはりただの法師では……その肉、食わせてもらう……!!」
陣に囚われた鬼が彼に向かい爪を振り下ろすが、その右腕は陣から出た瞬間霧散した。
「強力な結界みてーなもんよ。ちなみにおじちゃん多分あんま旨くないぞー? 普通そういうのって女子供の肉だろ。それに、お前らあまりおじちゃんばっかに集中してると――」
首――、狩られるぞ? そんな低い声は鬼達の耳には届かなかった。まるで何かが滑るように赤い光が移動し、鬼達の首は胴体から離れ落ちる。
「残念ながら、女子供の肉もあげないけどね」
刀が鞘に収まる音と、そんな声が赤毛法師の耳に入る。そこにいたのは子供だった。右手には札が貼られ、男物の袴を履き、刀を腰に下げて長めの黒髪を結った齢十代半ばの少女に、赤毛法師は「上出来上出来」と笑いかける。
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