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「上出来上出来、じゃないよ鬼灯(ほおずき)おじさん! 急にふらっとどこかに行ったと思ったら夜遅くに式神寄越すなんて! 私、別れたところで待ってたのに!」
怒りながら鬼達の死骸を見つめる彼女に、鬼灯と呼ばれた赤毛の中年法師は何も反省していないかのように笑みを見せ口を開いて小さく語る。
「まあまあ、これであの村の連中も襲われることはなくなるだろ」
その呟きに、少女は丸い赤い瞳をさらに丸くして、驚きの表情を浮かべながら音もなく近づき法師の顔を覗き込む。銀にも見える灰色の瞳には笑みが宿っていた。
「金にならない仕事はしないんじゃなかったの? あ、あの村の人達が泣いてたから?」
赤毛の法師は彼女から体を背けて頭を掻く。赤毛が白髪に混じってはらはらと地面に抜け落ちた。
「いやいや、鬼の村からがっぽりせしめようとしたら全部幻術で参った参った。あの人間の村で飯食っとくべきだったなこりゃ」
「照れ隠し」
彼はそうにやにやしながら言った少女の頭をぐしゃぐしゃと撫でてから「そう思いたきゃ思っとけ」と呟いた。
「あ、そういえば、酒持ってたよね全部」
少女の言葉は鬼灯の肩を震わせる。それを見た彼女は「飲んだ? 銘酒ばっかりだったのに飲んだ? 全部? おい私の分は?」と彼の胸ぐらを掴み揺する。
「嬢ちゃん、嬢――す、鈴蘭(すずらん)さんちょっと落ち着――」
「私の酒ーっ!!」
ついには刀を抜く音響き、やれ男は一目散に走り出す。
少女もそれを追い、夜明けとともに彼らの姿は見えなくなった。
中年法師と少女剣士、いったい彼らはどういう経緯で旅をしているのか。それに関してはまた次回。
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