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秋風に揺れる草原を、ざくざくと歩く赤い鞘の刀を腰に差した男物の袴姿の、黒髪を高い位置で結った齢十代半ばほどの少女。
そのだいぶ後ろをのんびり歩くのは、笠を目深に被った齢四十四五の黒衣の中年法師である。右手には錫杖を持ち、時折眠そうに欠伸をしている。
「鬼灯おじさん早く行こうよ! 私、野宿は嫌だからねー! お風呂入りたいし……」
立ち止まり後ろに向かい叫ぶ少女に、「えー?」と不満を漏らすのは中年法師。その目深に被った笠から、赤毛が覗く。
「えー、じゃないの! もう何日歩いてると思ってるのさ。食料も底つきそうなんだから、ほら、きりきり歩こうよ!」
秋風に落ち葉が舞い、枯れ草を踏みしめながら歩く二人。しかし、地面の様子が明らかに変わり始めた。まるで絨毯のように敷き詰められた赤い花。薄い赤、濃い赤。鮮やかに咲き乱れるそれに目を奪われている少女。
「ほら、見て鬼灯おじさん、綺麗――」
その口を中年法師が塞ぎ、そのまま担ぎ上げて飛び退く。その姿を追うように棘の生えた蔓が伸びたが、彼は軽やかにそれをかわして少女を安全な場所に寝かせると、まるで祈るかのように両手のひらを打ち鳴らした。
同時に赤い陣が花畑を取り囲むように敷かれ、錫杖を地面に突くと同時に赤く輝きを増して陣の中が爆散する。
それだけでは間に合わないと確信したのか、彼は少女を背負って走り始める。
「おい嬢ちゃん、あの花粉吸ったか!」
法師はそう語りかけるが、少女の息は既にあがっており、ぜぇぜぇと熱い息が彼の肩に掛かる。
蔓が追ってこないのを確認してから、鬼灯は彼女の腕を捲り、その白い肌に発疹がでていることを確認し、小さく舌打ちした。
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