第一章

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「母ちゃん、遠征のときは弁当作るなって言ってんだろ!」 練習試合の朝。 悠太は準備された弁当箱を見て、声を上げた。 「何言ってんだよ。毎回買い弁じゃあ、母ちゃんが手抜いてると思われるじゃないか」 母は腰に両手を当てたポーズでびしっと言い返してくる。 「誰も思わねえよ!つーか皆買い弁なんだよっ!」 練習試合に行った先で、弁当箱を広げるヤツなんかいない。 少なくとも悠太の通う西中バスケ部はそうだ。 「コンビニ飯は遠征の楽しみのひとつなんだ!」 「何ムキになってんだい。せっかく作ってやったんだから持っていきな。母ちゃんの飯がコンビニ飯よりまずいって言うのかい」 母と口論で勝てる気がしなかった。 このまま反論を続けたら、そのうち「もうお前の飯は作らないよ」と言い出すに決まっている。 祐輔は渋々弁当箱をスポーツバッグの底に詰めた。 「何度も言わせるなよ母ちゃん。俺だけ手作り弁当のほうが恥ずかしいんだ。次からはいらないから」 最後にそう念を押してから家を出たが、次の遠征でどうなるかは怪しいものだった。
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