第一章

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「―――いらっしゃいませ」 高校生くらいに見える彼女は、今まで笑いを堪えていたためか、業務用のスマイルではなく自然な笑顔でそう言ってペットボトルを手繰り寄せる。 ゆるいパーマがかかった明るい栗色の髪から、いい匂いがした。 ピッと音を鳴らしてバーコードをスキャンする手元を見ると、爪が綺麗に塗られている。 桜色と白の、ツートーン。 けばけばしくもなく、自然で、可愛らしかった。 「2点で、445円です」 顔を上げた店員と、目があった途端――― 悠太は、ボッと体中が熱くなるのを感じた。 ―――うおっ、なんだコレ!? 慌てて小銭を落としてしまい、急いで拾う。 彼女はそれを見て、またクスクスと笑った。 「す、すみません」 拾った小銭から500円玉を差し出す悠太に、彼女はニコリと頷く。 「500円、お預かりします」 お釣りを渡すとき、レジ店員としての決まり文句ではなく、彼女はこう言った。 「これから部活?頑張ってね」 彼女の長い前髪を分けて止めているピンも、桜色だった。
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