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知らないけど、見たことはある人。
どこで会ったっけ?
「いきなりスミマセン。夕飯の買い物ですか?」
「えぇ、まぁ」
本当にいきなり。
男性はジーパンに黒のシャツ。
人懐っこい笑顔は警戒心を緩ませる。
歳は私と同じくらいかな。
男性がここのコンビニの袋を差し出した。
「?」
「買ったはいいけど、ちょっと呼び出しくらって。良かったらもらってくれません?」
思いがけない言葉に首を傾げた。
「持っていけばいいんじゃありません?」
「名前でも書いてないとすぐ食われるんですよ。野郎に食わせるぐらいなら、ね」
ね、と満面の笑みで言われても。
男性は私が受けとるまで帰る気配を見せない。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
受けとると、男性は満足そうに微笑んだ。
「ありがとう。じゃあね」
「あ……」
あっさりコンビニを出ていった。
ありがとうなんて、私が言うことなのに。
「誰だったんだろ」
何も買わずにコンビニを出て、マンションに戻った。
袋の中にはサンドイッチにサラダ、ヨーグルトに箱に入ったチョコレート菓子。
「甘党なのかな」
あの男性のおかげで、久しぶりに穏やかな気分になれた。
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