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仕事が始まれば、やることに追われて余計なことは考えなくていい。
それに、この歳になると周りのことや仕事のことが見えるようになって、上と下の板挟みになることもしばしば。
月の半ばの今は、大して忙しくはないけど最近は自主的に残業している。
そのことに対して、周りの反応も耳にしたけど、勝手に言わせておいた。
「今日もやるの?」
「うん。区切りのいいとこで帰るよ」
定時になり、椿が寄ってきた。
初めは付き合ってくれたが、流石に連日は悪いからと先にあがるよう言ってある。
「じゃあ、また明日ね」
「お疲れ」
静かになった室内はキーボードの音がよく響いた。
「終わったー」
立ち上がって身体を捻ると、いい音が鳴った。
ずっと座っての作業も楽じゃない。
「帰るか」
着替えて社員出入口に向かうと、ネクタイを緩めながら歩く嵐と出くわした。
「お疲れ」
「お疲れって、瑛ちゃんまだ残ってたの?」
「ちょっとね。あんたは?」
「俺は忘れ物取りに戻っただけ」
そう言って、セットされた髪をクシャッと乱した。
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