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「伊藤さん複雑な顔してたよ」
後輩がいるとは言ったけど、嵐だとは言ってない。
前の私ならあそこで「嵐」とは言わなかった。
今までちゃんと「黒川さん」って呼んでいた。
彼が驚くも無理はないか。
「戻る?」
「イヤ。お店教えてくれる約束でしょう?」
そもそも、連れだしたのは嵐のほうなのに、ノコノコ彼のところに行けるか。
というか、戻りたくない。
「ハイハイ。友達が教えてくれたお店でね。瑛ちゃんもスキだと思うよ」
着いていった先には看板らしきものがなくて、本当に営業しているのか疑った。
「大丈夫。信頼できる人がやってるから」
ドアを慣れた様子で開けると、結構人が入っていた。
「はい。スキなの頼んで」
「すみません」
近くにいた店員さんを呼び止めて、飲み物と軽くつまむものを頼んだ。
ガッツリは身体的に悪い。
「お、嵐。今日は綺麗な人連れてんな」
「……今日は?」
色々な女を連れて来てるのかという視線を投げると、嵐が珍しく取り乱した。
「匠さん! 瑛ちゃん、誤解しないでね」
そばに来た男性が面白そうに笑っていた。
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