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「何が"俺の"よ。図々しい」
今度こそエレベーターに向かった私の背中に、
「俺には言えるのにね」
小さな呟き。
振り返らずに真っ直ぐエレベーターに向かった。
顔が見えなかったから、どんな表情をしていたのかは分からない。
嫌味にも聞こえたが、それはどことなく寂しさが含まれているような気がした。
まるで嵐も誰かに言いたかったことが言えなかった過去があるように。
「おかえり。遅かったね」
「ちょっと黒川さんに会ってね」
「とりあえずランチ行こうよ」
同僚の椿に引っ張られてオフィスを後にした。
食堂はイヤだと言った私のリクエストは通り、近くのカフェでプレートランチ。
「なんか連絡きた?」
椿がサラダをフォークで突き刺しながら聞いてきた。
誰から、とは言わない。
「なし。色々と忙しいんでしょう」
フォークで鶏肉のソテーを突き刺した。
「信じられない」
椿が呆れてサラダを頬張った。
確かに彼女だった。
婚約のことを他人の口から知らされるまでは。
「……もういいよ。別に結婚するって言ってたわけでもないんだし」
私もサラダを頬張った。
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