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01.
「だから、そういう時は困った顔すれば男なんてイチコロよ」
夕日が差し込む静かな教室に私の声が響いた。
その言葉に感心したらしく、前の席に座る友達が何度も頷く。
「なるほどね。さすが恋愛マスター、明実」
まるで王様でも讃えるかのような口ぶりでいうから、なんだか照れてしまう。
「そんなことないって」
なんて言いつつも、心の中では自分に拍手よ。
本当はね、私凄いかもってうすうす感づいちゃってるんだよね。
だって私が恋愛相談乗っている人の恋はほとんどの確立で成功してるの。
けれど絶対口にはしないよ。だって謙遜するのが女子ってものだもん。
「あ、ごめん。私今日バイトなんだ。もう行かなきゃ」
目の前の彼女は時計を確認したかと思ったら、いつの間にかバックを片手に立ち上がっている。
すると私の返事なんて聞かないまま、それじゃあと言って早足で教室を出て行ってしまった。
見えてないとわかっていながら、彼女に手を振る私。
「・・・・・・はぁ」
ゆっくりと振っていた手を力なく落とすと、そのままため息もこぼした。
なんか疲れちゃった。
私、中原明実(なかはらあけみ)は一部の女子の間で『恋愛マスター』と呼ばれている。
命名の理由はいたってシンプル。私が恋愛豊富で通っているから。
そう言われて悪い気はしない。
だってどんな人が聞いても私が恋愛に長けているって思ってくれるでしょう?
そういうのってすごく優越感。
「お前、本当はカレシなんていたことないだろう」
唐突に投げかけられた言葉に反射的に振り向くと、教室の出口に寄り掛かりながら私の方を見ている人物が視界に入る。
見知った顔に思わず、彼の名前を呟いてしまう。
「・・・黒田・・?」
「よう。で、どうなの?」
私の小さな呟きを拾ったらしい彼は、口元に笑みを浮かべ私に近づいてくる。
私が呆気に取られている間に、先ほどまで友達が座っていた席に勝手に腰を落とす。
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