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征吾は私の言葉には答えなかった。
ただ、強く強く、私を抱きしめた。
「…戻らなきゃ」
征吾の腕の中で私は呟くように言った。
その言葉を合図に、ゆっくりと解かれた腕に、私はそっと触れながら言った。
「じゃあね。…頑張れよ」
一瞬だけ合った目を思い切り逸らして、車のドアを開けた。
痛いくらいに冷えきった空気の中に足を下ろし、後ろは見ずに来た道をざくざくと歩いた。
後ろから追いかけてくる足音はやっぱりなかった。
そんな音を探してしまう自分に呆れながら、ただざくざくと歩いた。
もう駐車場が見えなくなるところまで来てから立ち止まり、夜空を見上げた。
星は、1つも見えなかった。
涙にかき消され、ただぼやけた暗がりしか見えなかった。
真っ暗な空を見上げながら私は小さく声を上げて、ただただ泣いた。
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