生徒会の魔王様

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 終礼を告げるチャイムが鳴り響き、長谷川恭介は逃げるような足取りで1-Bの教室を出た。  リノリウムの階段を下り、昇降口へと向かう。  だだっ広いエントランスにはこれから帰宅の途につく学生達で溢れかえっていたが、恭介を見かけると亀裂が走ったように人垣が割れた。  たちまち非難の籠もったざわめきが湧きあがり、エントランスホールを一杯に埋める。 「お、おい見ろよ。長谷川だ!」「あれが魔王の手先か……。初めてお目にかかったぜ……」「馬鹿っ!目を合わせるな!俺達も地獄送りにされるぞ……」「悪魔に魂を売るとは狂気の沙汰だな……」「可哀想……」  同情を含んだ溜息や視線が恭介の背中によく染みる。  いや、同情されるだけならまだマシな方だ。生徒の中には、むき出しの怒りのオーラを放ち、 「裏切り者っ!」「クズっ!ハウスダストっ!」「お前の血はなに色だぁあああ!」「馬に蹴られてしまえ!」  気炎を揚げて猛る声が恭介の耳に容赦なく襲ってくる。 「糞ぉおおおお!俺達は何て無力なんだっ……」「何であんな奴に才華さんがうぅ……」   忍ばずにむせび泣く生徒もいるのだから、もう恭介の手には負えない。   そんな殺意の雨あられに晒されながらも、恭介は逃げるように首を竦めて、何とか阿鼻叫喚の玄関から抜け出すとに成功した。  外気に触れると、春の芳ばしい香りが鼻腔をくすぐってくる。  放課後の夕暮れに染まった梢はすっかり桜の花を散らせ、恭介に初春の終わりを予感させた。  四月も終盤、四月二五日。季節は春の節目を迎えている。 「はぁ……」  つい、溜息が口から溢れてしまった。  本日一番の溜息だ。  いや、恭介の中では、高校生活始まって以来のドデかい溜息になった。  二番目は、恭介の親父が母親の前で土下座しているところを目の当たりにしてしまったときで、三番目は、どSの妹に『馬鹿兄無期限奴隷宣言』を突きつけられたときとか今はどうでもいい。 どちらにせよ、今の溜息で、そんな苦い思い出が完全に色褪せてしまった。 「はあ……。」 それにしても、今日はいつもより、皆からの風当たりが強いように思える。  いつもなら、あそこまで騒がれる筋合いもない。せいぜい、無言で避けられるか無言で財布を渡される程度だ。  それはそれで苦しいのだが。 (これもそれも、例の法案が通ったせいだ……)
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