生徒会の魔王様

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 まさか、構内でどこぞの修験者のような行脚を課せられることは恭介には誤算であったが、その環境面や学業面に対する高い評価や、十分な満足度は入学して幾ばくが過ぎても、変わることはない。  当然、学園の規模に比例して、文化祭や体育祭のイベントのみならず、ビックな青春ウハウハイベントが恭介を待ち受けていると期待していた。  恭介はそこに青春のセールスポイントを感じていたのだ。 「ああ、さらば我が愛しの青春……」  けれど、自分の描いた青春像とは程遠い。  この肥沃な大地に根を張れば、この桜木と同じように、自分も大きな人間になれる。  そして、この学園で青春を謳歌してやる。  そんな思いで、期待と不安で胸を膨らませ、意気込んでいた頃の自分が懐かしい。  この私立明星桜高等学校に入学した当初、この桜木の雅な風情に魅せられた恭介は、今日と同じように脚を休め、心ながらに、ただ人から流される人生との決別を誓ったものだ。  そして、何週間と経過した今、あの頃の初々しくてあどけない自分をぶん殴ってやりたいと思う。 「桜散る、花のところは、春ながら、雪ぞ降りつつ、消えがてにする。やっぱり、いきたくねぇ……」  子どもの頃に囓った和歌を口ずさみながら、ここだけ桜前線から抜けだした。  学芸棟へと続く道すがらをトボトボ歩きだす。  恭介の教室のあったA棟から目的地のB棟までは二キロ近くとまだまだ距離がある。 こんな調子の牛歩では、学芸棟にたどり着くまでに太陽が沈んでしまうだろう。
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