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「おい待て!! あんたは何なんだ?! 馬鹿なのか?」
――暴言を吐いた。
「どうかしましたか?!」
神様は何食わぬ顔で思いがけない事に驚いた素振りをしているが、その見え透いた演技は本当の馬鹿としか思えない。彼もそれを感じ取ったのだろう。
「どうするも何も下僕って何だ? 下僕って?!」
「いや~最近人手不足で困っていたもので」
屈託のない笑みを放ちながら神様はとんでもない事を口走った。
もうあれだ……この人本当に神様かよ。
彼は落胆し、それを表現するかのように椅子に落ちるように座り、その勢いのまま机に突っ伏した。
「神様です。冗談はさておき、勝手だとは思いますが貴方の選択肢はないのです」
申し訳なさそうに言う神様から、本当に冗談だったという事が伝わってくる。神様なりに場を和ませたかったのだろう。
彼もそれに気が付き、姿勢を正すと頬杖をして考え込み、しばらくしてから胸の内を明かした。
「さっき常識を覆す人もいるって言ったよな? それに俺も含まれているのか?」
「えぇ、記憶とはまた違いますが……確かにそうですね。それがどうかしましたか?」
その言葉を聞いた瞬間に彼の表情は変わった。選択肢はないと勝手に突き付けられた“生”。
自分という存在も知らぬまま別の世界で暮らせと、神様が言ったようなものだが、ここに居てもそれは同じ。
その絶望の中から微かな希望を見出だす事が出来た彼には最早迷いの色はない。
「そうか……。だったら生きて記憶を取り戻す。また常識を覆せば良いだけの話だろ?」
どうせ道は決まっている。ならば神様に反発せずに新しい生を受け取ろう。生きて記憶を取り戻して、自分が何者なのか知りたい。
彼はそう強く願った。闇に染まる瞳に光を帯びて。
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