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白――その言葉以外で、どう表現すれば良いか分からない程に白い部屋。
壁や床は勿論の事、アンティーク調に揃えられた机や椅子、秒針が進む事を止めた時計に、無数の分厚い本が収納されている本棚。
その全てが白一色に統一されている。
その他にも様々な物があるが、決して圧迫感を与える事がない、広く整った部屋。白が膨張色だから、という訳ではなさそうだ。
――そこに唯一の黒が存在していた。
部屋に馴染む事がないであろう黒のロングコートを中心とした服装、少し長めの黒い髪、魂を抜かれたように据わっている黒い瞳、整った顔つきと長身の所為か、何処か大人びた印象だ。
彼は立ち上がり、眉間にしわを寄せて見覚えのない部屋を見渡した。
ここは何処だ? 先程までの事は夢……なのか? いや、この場に居る事の方が夢か……。
徐(おもむろ)に額に手を当てて異常がないか確かめるが、何処にも傷や血痕がない事に更に困惑の色を強めた。
訳が分からない――。
そう思いつつ、彼はふと天井を見上げると、そこにはこの部屋に唯一存在する窓があった。窓の向こう側から差し込む光が粒子状になり、輝きながら舞い落ちてくる。そして空気中に溶け込み、部屋を明るくしていた。
「綺麗だな……」
彼は自分の状況など、どうでも良くなってしまう程の光景に目を奪われ、ここに来て初めて声を出した。
いや、ただ現実から目を逸らしたかったのかもしれない。
「そうですか? ありがとうございます。実は私も気に入っているのです」
「!?」
自分以外誰も居ないと思っていた空間。突然背後から優しく澄んだ低音の声が聞こえた事に、彼ははっと振り返った。
その先には白を基調に金の装飾をあしらった、きらびやかな服を着た人物が立っていた。
中性的な整った顔に紫の瞳、金色の長髪は後ろで結われており、その存在が何処となく神々しさを醸し出している。
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