~静寂の始まり~

7/21

158人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
 誰が見てもあれは幻想的で綺麗だと思うよな……?  彼は思案するものの質問の意図が読み取れず、途方に暮れた。 「ではその光は何処を基準にして綺麗なのでしょう? 貴方が生前に一番綺麗だと感じた事は何ですか?」  それを見兼ねたのか神様は付け足すように切り出した。  彼は押し黙り、神様に言われた通り“一番綺麗”だと思った記憶を探ると、先程とは違い、すんなりと思い出す事ができた。  ――それは彼がまだ幼かった頃の十二月の寒い日の話。  明るい内に誰かに連れられて、森の近くにある広い草原にやって来ていた。  日があるためか、さほど寒さを感じなかったが、それでも冬の冷たい風は容赦なく彼を震えさせた。  その寒さを紛らせようと辺りをしきりに見渡す。草原には薄く雪が積もっていて、ほとんどの草が枯れ、木々たちも元気がなさそうだ。  土がむき出しとなった場所にテントを張り、そこから少し離れた場所に石を円形に積み重ね、その中に拾ってきた木の枝を投げ入れて火を灯す。  焚き火の周りに、持ってきた折り畳み式のレジャー用のベンチを広げて、腰を下ろすと隣に誰かが座った。  一緒にいる人物が誰なのかと気になり、視線を移すが、その人は黒い影になり顔も体格も性別すら分からない。  緋色の燃え上がる炎はただ暖かくて、日が沈み暗くなり始めた草原の一角をほんのりと照らし出した。  黒い影が焚き火の上に金網と鍋を置き、温かいスープを作ると、ぐつぐつ煮え立つ湯気とともに美味しそうな香りが鼻を通り、食欲を刺激する。  いつの間にか持っていたスープを温かい内にがっつくように食べ、寒くなってきた体に熱が加わり、ぽかぽかと火照る。  食べ終えると黒い影が焚き火を消し、辺りはすっかり闇に包まれ、暖が消えた事により肌を突き刺すような風が頬を撫で、耳がひりひりと痛み出した。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

158人が本棚に入れています
本棚に追加