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考えれば考える程、痛みに顔を歪めて歯を食いしばり、うめき声を漏らさないよう耐えている。
痛い……苦しい。このまま……何も知らずに、消えるのが……怖い。俺は、誰なんだ……。
それはあまりにも痛々しく、目も当てられない光景だった。神様は急いで彼の元へ行き、その場で片膝をついて屈み、彼の顔を覗き込んだ。
「落ち着いてください。私の声だけに集中しなさい」
彼の額にそっと手を当てながら、不思議な言葉を紡ぎ始めた。
これで助かるなら――と藁にもすがる思いで、その心地よい声だけに意識を集中する。徐々に痛みが引き始めたのか、やがて彼の表情から苦痛の色は消え去った。
「大丈夫ですか?」
神様は心配そうに眉をひそめて、額から手を離し、彼の上体を支えながら起こすと、彼は一度深呼吸をして落ち着きを取り戻し、痛みが消えた事を確認してから立ち上がった。
「あぁ……もう大丈夫だ」
その言葉を聞いて、安堵に胸を撫で下ろし「良かったです」と彼が先程座っていた椅子を起こして、自分の席へと戻った。彼もまた対面するように椅子に座った。
人物は影になり、他の風景を思い出そうとしても霞が掛かったように朧気(おぼろげ)になるだけ。ほとんどの記憶は無いに等しい。死んだ際の記憶はあるのに理由が分からない……。
「大体理解できたけど……その他の風景も情景も浮かばない。俺が死んだ時の事を教えてもらえるか?」
彼はどうしてもその理由が知りたかった。自分が何者かも分からない中、懇願の思いで口にしたのだ。
「えぇ、詳しくは話せませんが……それでもよろしければ」
神様は困った表情を浮かべ、渋るように答えた。
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