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「あ……」
声が、出ない。
「ちょっとだけ、紗羽を借りてっていい?」
そう言う大輝に、あたしは不安になって蓮を見上げる。
蓮は「紗羽のしたいようにすればいいよ」とやさしく言ってくれた。
蓮の手をまたぎゅっと握ってから立ち上がった。
大輝についていくと、よく二人で過ごした屋上に出た。
「あいつらみんな変わんねえけど、紗羽は変わったよな。綺麗んなった」
屋上についてすぐに話し始めた大輝に、心臓がドクドクと痛いくらいに反応する。
「怒ってるよな、あの時のこと」
あの時のこと?
どの時のことを言っているのかわからなくて、大輝の顔を見上げると「やっとこっち見た」と言ってから衝撃発言をした。
「俺、紗羽が見ているのをわかっていて、女を抱いた」
大輝はあたしの反応を観察するように、こっちをじっと見ながら話しているけれど、
気づいていたの?
なのに、他の女を抱いたの?
あの当時のことを思い出して、胸がずきずきと痛み始める。
そんなあたしを前に大輝はさらに続けた。
「なあ紗羽、覚えているか? 最後に抱いた日、俺が言ったこと」
大輝は眉をハの字に下げながらそう言ったけれど、最後に抱いた日?
何か言ったっけ?
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