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「でも言い訳はしなかった。むしろ、あたしが見ているのをわかっていて女を抱いたって……」
そう言った瞬間、目からほろりと涙がこぼれた。
「意味がわからなくてっ、何でそんなことをしたのか、ほんとにわからなくてっ……」
「ん」
この瞬間、大輝が言っていた言葉が頭の中を占領する。
『何であんな大切なことを忘れんだよ!』
大切なこと……。
確かにあれは大切な約束だったのかもしれない。
でも、じゃあなんで他の女(ヒト)を抱いたの……?
あれがなければきっとあの約束を忘れることはなかったと思う。
「紗羽?」
「あたし……」
止まっていた涙がまた溢れそうになって顔を伏せる。
「あたし、大輝との約束を忘れてた」
「約束?」
「うん。……最後に会った日に約束したのに、桜の木の下でのことがあまりにショックで。大切な約束を、忘れちゃってた」
「……その約束って、何?」
蓮は静かな声でそう訊いてくる。
その表情はどこか不安げで。
あたしがそうさせているんだと思うと胸が痛む。
だけどあたしは、今自分がどうしたいのかわからないんだ。
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