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大輝の車の助手席に座った。
あの頃と変わらない大輝の匂いに涙が出そうになる。
そんなあたしをよそに、大輝は無言で車を走らせた。
どれだけ経っても大輝は口を開かないし、どこにも着かない。
「どこへ行くの?」
「どこだと思う? ……もうすぐ着くから」
大輝はそれだけを口にし、そのまま黙りこくってしまった。
けれど、すぐにわかった。
「大輝……何で?」
「今日は何の日か覚えているか?」
「……」
この場所に来た時点で気付いた。
今日は大輝の誕生日。
三年前もここで過ごした。
視界いっぱいのオレンジを目の前にして
『紗羽の誕生日は夕日を見たよな』
『うん。夕日も紅葉もオレンジだね』
『来年も再来年も、これからずっと……紗羽と俺の誕生日にはオレンジを見ような』
『うん! 絶対だよ! 約束ね』
そう言って、指切りをした。
この約束が果たされることはなかったけれど、あの時はそれが永遠に続くと思っていた。
二人で過ごしたオレンジが特別な色に感じたんだ。
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