行かないで

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「寒くねぇ?」 蓮はやさしく微笑みながらあたしの顔を覗き込んで来た。 そういえばさっき服を脱がされたままだったんだ。 でも蓮の温もりを感じるから寒くはない。 だから首を横に振ってそれを伝えた。 「俺、今……最高に焦ってる」 抱き締められながら蓮を見上げると、さっきまで柔らかい笑みを浮かべていたのに、今は眉を下げて悲しそうな表情をしている。 「元彼の大輝さんに紗羽を持っていかれるんじゃねぇかって……」 蓮の本音にどきんっと胸が鳴る。 一瞬といえども揺れたのは確かだった。 「紗羽が、大輝さんのことをどんなに好きだったかも、別れてどんなに傷ついたかも知っているから……」 それだけ言うと、抱き締めていた腕を緩めて蓮はあたしの目線に合わせてきた。 「紗羽は俺が好き?」 「うん、大好き」 「大輝さんにキスされて揺れなかった?」 「えっ」 動揺した…… どきどきと胸が痛く騒ぎだす。 「やっぱり……」 蓮はどこか遠い目をした。 「俺と大輝さん、どっちが好き?」 「何で? 何でそんなことを訊くの? 蓮に決まってるじゃん」 いくら揺れたとはいえ、蓮が好きだって想いは変わらない。 なのに、それを否定された気がして涙がぽろぽろと溢れてきた。
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