大切な思い出

4/13
前へ
/358ページ
次へ
最後に抱かれた日、優しすぎたけれど何も疑いもしなかった。 あの時に大輝の異変に気付いていれば、何か違っていたんだろうか。 でも桜の木の下の出来事を見た時、何も考えられなくなった。 この世界の色をすべて失って、モノクロの世界になった気がした。 「紗羽、少し歩こう」 着いた場所は、よく二人で歩いた大きな公園。 緑もあって、池もあって、ずっと歩いていても飽きない、そんな場所。 「手ぇ繋いでもいいか?」 これが最後だと思ったら無意識にコクンと頷いていた。 手を繋ぎながらゆっくりと歩く。 大きな池の前にあるベンチに肩を並べて座った。 プロポーズの返事をしなければならないのに、さっき思い出していた大輝との思い出があまりにも深すぎて…… あの時はほんとに幸せだったから…… 何も言えなくなった。 その代わりに出たものは…… 涙だった。
/358ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6943人が本棚に入れています
本棚に追加