大切な思い出

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「紗羽、どうした?」 大輝は心配そうにあたしの顔を覗き込みながら言うけれど…… そんなにやさしい声を出さないで。 涙腺を刺激しちゃうよ。 「だい……きっ……」 涙で言葉が詰まった。 「紗羽?」 それでも自分の気持ちをちゃんと伝えなければ、と口を開く。 「あたし、大輝のことがほんとに大好きだった」 「ん」 「大輝にプロポーズされて……あれからずっと、大輝のことばかり考えていた」 「ん」 「あの桜の日からずっと辛くて、泣いてばかりだったけれど……それでもやっぱり大輝といた時間は凄く幸せだった」 「ん」 「でも……」 ここまで一気に話したけれど…… ほんとに言わなければならないのはこの先の言葉。 ちゃんと言わなきゃ。 大輝の瞳を真っ直ぐに見ながら 「大輝とのことは、今はもう思い出なの、……大切な思い出」 「ん」 「だから、……プロポーズはごめんなさい」 そう言って、バッグから出した指輪を大輝に返した。
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