大切な思い出

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「もう大丈夫だと思うよ」 「ん? 何で?」 「一昨日だったかな、大輝のこと、男らしいなぁって言っていたよ」 「男らしい? 俺、なんかしたっけ?」 大輝は手を顎に添えながら首を傾げる。 そんな大輝を見ながら、一昨日大輝が蓮の前でプロポーズしたって聞いて目を輝かせていた晴希の姿を思い出す。 「ふふ、とにかく前の晴希に戻りつつあると思うよ」 「そっか……」 そんなことを話していたらいつの間にかアパートに着いていた。 「……」 「……」 車が止まると、途端に訪れた沈黙。 大輝に想いはないけれど、これでほんとに最後なんだと思うと少し寂しい気持ちがわいてくる。 そんな沈黙を破ったのは大輝だった。 「紗羽、またな」 「うん……またね、大輝」 きっと“また”は……ない。 でも何となくお互いにそれを口にしていた。 そのまま車から降り、大輝の車が見えなくなるまで見送った。
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