浮気

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「紗羽に隙ができてんだよ」 「えっ、すき?」 意味がわからなくて首を傾げていると、晴希はついさっきまで何を考えているのかわからない表情をしていたのに、それを一気に崩すようにふっと笑いながら口を開いた。 「いつもは隙っつうもんが全くねぇんだけどさ……今の紗羽には、今なら俺でも入り込めんじゃねぇのってくらいに、隙だらけ」 そう言ってまたこっちにちらりと視線を向ける。 ちらりとしか見ていないとわかっているのに、晴希の想いを知っているからこそ、その瞳に捕まるのが怖くてふいっと視線をそらしてしまった。 普段はいつもおちゃらけているのに、ふとしたときに突然オトコの眼差しを向けてくる。 だからって、あたしには蓮しか考えられないからどうにもならないんだけれど、でもやっぱりその瞳には捕まりたくないから無意識にそれを避けてしまうんだ。 なんてことを考えている間に、晴希は車を路肩に止めていて。 ハンドルの上に両腕を組むようにして、顎を手の甲にちょこんと乗せながら、真剣な瞳を真っ直ぐあたしに向ける。 その姿は物凄くサマになっていて、晴希に対してそういう感情がないはずなのに、あたしの心臓は、どきんっ、と反応してしまった。 そうなると余計に晴希の方を見ることができなくて。 けれど、晴希はそんなあたしを前に静かに諭すように口を開いた。 「紗羽……今、おまえん中にあるもの、全て吐き出してみ?」
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