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「……」
「……」
しばらく見つめ合うように視線が絡んでいたけれど、晴希がふっと視線をそらしながら小さく息を吐いたあと、そのまま車を発進させた。
それと同時に、あたしの口からもほっと息が漏れた。
あのまま……見詰めあったまま、さらに晴希に押しきられるようなことを言われていたら、今度は振りきれる自信がなかった。
だから、安心したように力が抜けてしまったんだ。
そのまままた無言で走らせていた車はいつの間にかアパートに到着していて。
凄く気まずい空気が流れていたんだけれど、とりあえず「ありがとう」とお礼を言ってドアに手を掛けたら、隣で晴希がボソボソと呟くように何か言葉を放った。
「えっ、何?」
「いや、何でもねぇ」
そう言って晴希は前を見てしまったから、あたしも特に訊き直すこともなくドアを開けて車から降りた。
そのまますぐに走り出した車が見えなくなるまで見送っていたけれど、
『俺、その隙に入り込んでいい?』
晴希は確かにそう言った。
聞こえないふりをしたのは、晴希に流されてしまうんじゃないかと怖くなったから。
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