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妖怪である娘も夜の一部として、緩やかに闇と溶け合っていた。
そして、悪戯に湖面を“ぱしゃっ”と蹴り上げた――――
「……ここに居たのか」
その瞬間、背後から聞こえたのは男の声。
娘は大して驚く様子もなく、慌てる様子もなく、自然な動作で振り返った。
「ふふ……あんまり月が綺麗だから、つい」
小さく笑う、人の姿をした娘。
どうやらこの二人は親しい仲らしい。
男はやれやれと小さく溜め息をついて、娘へ歩み寄るとその背後に座り――――そっと、抱き締めた。
「少し目を離した隙に居なくなる…………全く、あまり心配させてくれるな」
「ごめんなさい、悪気はないの。でも、心配してくれるのが……本当は、嬉しかったり…………えへ……」
「っ……」
娘の可愛らしい言葉に、男は思わず言葉に詰まった。
「何を言う。大事なお前の姿が見えなくなって、心配しないはずがないだろう」
しかし、すぐにそう反論した。完全な照れ隠しだと見て取れる。
娘よりも長く伸ばした髪が、光沢のある黒い着物と相まって妖しく艶めいた。
(続く)
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