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一気に恐怖が押し寄せてくる。
顎が震える。
「いいか、もしお譲ちゃんが一発引いて死ななかったら、さっきの男の借金はしばらく目を瞑っていてやる。もしお譲ちゃんが死んだら今度はまたお前の番だ。」
野次馬の陰から先ほどの男が引きずり出され、惨めな声を上げた。
「しかし、お譲ちゃんみたいな良い女を殺すのは惜しい……
一晩俺と一緒に寝れば、今日の事は無かった事にしてやるぞ。」
女は首を縦に振りかけたが、最後の最後で自分を取り戻した。
なんて事……、男って最低!
あの憐れな男を助けるつもりはない……
でも、こんなやつに従うくらいなら死んでやる。
そう……、私はここに死にに来たの……
「どうせ死ぬ命だもの…… せめてだれかの役に立つならそれでいいよね……」
こめかみに触れていた鉄の塊は、すでに温かくなっていた。
女は、目を瞑り、震える指にゆっくり力を掛けてゆく。
パン!
乾いた音が響く。
終わった……
私はこれで死んだの……
こめかみに感じた火薬の熱い感覚。
後は鉛弾がわたしの脳みそをぐちゃぐちゃにして、すべてが終わる……
ぼんやりと目を開ける。
薄明かりの天井。煙草の匂い。あれ……、おかしい、死んでない。
軽くやけどをしたこめかみを触ってみても、そこは何ともなっていなかった。
「ふう……、まさか本当に引くとはね。驚いたよ……」
急に態度が変わったやくざが立ち上がると、その後ろから、先ほど死んだ血まみれの赤シャツの男が現れた。
彼は、大きな看板を持っている。
《ドッキリ大成功!!》
元気よく男は女の方に近づいて来た。
「どうでした?僕の演技!死んだようにしか見えなかったでしょう!」
プラカードを振る男の言葉が理解できない……
周りの野次馬たちがエキストラだと気付いて初めて、自分が騙されたのだ気がついた。
自分の様子を撮っているカメラマンも現れた。
ちっぽけな椅子に座っていた女は、そのまま机に伏して大声で泣いた。
「どうです!いざ死のうとしてみると、それはとても怖いでしょう。
怖いということは、あなたがまだ生きていたいと言うサインなのです!
もう、自殺なんて馬鹿な真似はやめて、これからは楽しく生きて行きましょう!」
仕掛け人の男はニコニコと笑っていた。
「怖がらせてごめんなさい。でも、もう安心ですよ。」
男は女を優しく諭す。
女の鳴き声は、地下室に響き渡った。
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