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暗い部屋の中、薄いパソコンのディスプレイの明かりだけが部屋を照らす。
薄暗い闇、床には脱ぎ散らかされた衣服が散らばっている。
女は死にたかった。
だが、死ねなかった。
孤独。誰かに同情して欲しいだけなのかもしれない。ただ自分が惨めで仕方がない。
女は、乱れた長い髪を掻きむしりながら、ひたすらキーをたたく。
なぁに、一つの恋が終わっただけだ。
簡単な事。
ただ、それが婚約者を、親友だと思っていた仕事仲間に取られたのが許せなかった。
貧乏ゆすりする女の足元、半開きの睡眠薬の瓶が皺になったカーペットに倒れる。白い錠剤が散乱した。
「ああああああ……、みんな死ねば良いのに。」
女は、金切り声を上げて机を叩いた。
ディスプレイに表示されたSNSの写真。笑顔で映る男女の姿を血走った眼で睨む。
なぁに、一つの恋が終わっただけだ。
簡単な事。
ただこの女だけは許せない……
女は、ディスプレイに映る女の顔めがけて、果物ナイフを振るった。
貫かれる液晶の写真。ぐちゃぐちゃの女の笑顔。乾いた音と破片が机に乱れ散った。
画面の上半分が真っ暗になり、写真の女の首から上が無くなった。
女は、一瞬恍惚に浸るも、大きくため息をついた。
「そうだ……、死のう、今度こそは死のう……」
銀のナイフを震える手で手首に近づける。
刻まれたいくつもの傷跡。
絶望からの解放感を誘う痛みと共に、赤い滴がわずかに浮かび上がった。
手首をつたう温かな命から目が背けられない。
そんなとき、机の上の女の携帯が振動した。
正気の世界が来る。
先ほど、たまたま掲示板で見付けた、『あなたの死に場所用意します』というコメントに送ったメッセージが返ってきたのだ。
ほんの興味本位だった。
女は、内心怯えながらもメッセージを開く。
内容は、明日の夜、XX町の地下にあるバーに一人で来てくれというものだった。
集団自殺の場所に、バーを選ぶなんて……
女は不思議に思ったが、次の日、身支度を整えて、一番綺麗な服装でその場に赴くのだった。
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